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第七話
其の③双葉芳し【後編】
紙には、『月夜見梅花』と記してありました。月の夜、梅の花を見るという題なのです。阿呼は、渡された紙と筆を持ちながら、チラリと庭の方に眼をやったかと思うと、すぐ筆を動かしはじめました。
そばにいる父は、ほほえみながら見ていましたが、実は気が気ではありません。書き終わって、忠臣の前に差し出した紙には、火のように記されていました。
月 耀 如 晴 雪 梅 花 似 照 星
可 憐 金 鏡 轉 庭 上 玉 房 馨
これは、
月輝きて、
梅花は
庭上、
と読み、その意味は、次のようになります。
月は照りかがやいて、あたりは晴れた日の雪景色のように見え、梅の花は、キラキラひかる星にも似て見える。窓には黄金の鏡にも似て、美しくかがやく月のおもしろさ、その上、庭には高くかかる梅の花、ああ、何という美しい夜であろう。
読み終わった忠臣は、紙を是善に渡しながら申しました。「いや、大したものでございます。・・・・・さすがに、さすがに。」
よほど感心したのでしょう。忠臣は頭を、右に又左に、何度となくかたむけ、顔が少し青ざめてさえきました。是善は、
「いや、なあに」
といったものの、心のうちのうれしさは、包みきれません。ニコニコしながら、優しい眼差しで、阿呼の方を見るのでした。
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