三浦半島唯一学問の神 久里浜天神社
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天神様菅原道真公のお話
第四十二話
その⑲御衣を賜わる【前編】


朝廷では一年のうちに、いろいろな儀式をとり行なわせられます。

中でも、正月にとりわけ儀式が多く、その正月の儀式の一つに 朝勤行幸(ちょうきんぎょうこう) というのがありました。これは上皇への始めのご挨拶のため、天皇が御出ましになることです。

昌泰三年(900)の正月にも、この朝勤行幸が行なわれました。行幸遊ばされるのは醍醐天皇、御挨拶をお受けなさるのは、宇多法皇(昌泰二年十月、 落飾(らくしょく) し給う。)にまします。

右大臣菅原道眞も、この行幸の御伴(おんとも)を申し上げました。

天皇と法皇とは、一通りのご挨拶をお済ませになると、あとは、いろいろの御物語りをなさいましたが、お二方のお話は、いつしか国の政治のことに移ってまいりました。

ことに、これからさきの日本の政治を、どう進めたらよいかということについて、法皇はご熱心に、お考えをお述べになりました。

そして法皇は、菅公を関白に任じて、すべての政治をおまかせになるがよい、と仰せられました。こうしたことのあった同じ年の9月9日、いつものように菊の節供というので、宮中では盛んな御宴が開かれ、参列した人々は、与えられた題に対して詩を作りました。

もちろん、菅公もその中の主な一人でした。

あくる十日にも、また御宴があり、その日は、『 秋思(しゅうし) 』という題で詩を作ったのでした。

この時の菅公の詩は次のようでありました。

丞相(じょうしょう) 年を渡りて
    幾たびか 楽思(らくし)せり。
今宵物に触れて
    自然に悲しむ。
声は寒し、 絡緯(らくい)
    風吹くの (とりこ)
葉は落つ、 梧桐(ごどう)
    雨打つの時。
君は春秋に富み、
    臣は (ようや) く老いたり
恩は (がいがん)なく、
    報ゆること (なお) 遅し
知らず、この意いづくにか
    安慰(あんい)するを。
酒に飽き、琴を聴き、
    また詩を詠ぜん。


これをやさしく書き直すとあらまし次のようです。

陛下の御寵愛によって大臣にまでしていただき、楽しい月日を送ってまいりましたが、今宵は何となく物さびしく、何となく悲しい思いでいっぱいでございます。

吹く風と共に、くつわむしの鳴き声はうすら寒く感ぜられ、降る雨に、はらはらと桐の葉の落ちゆく秋のことですから、ひとしお物悲しく思われます。

陛下には、まだお若くて将来がおありでございますが、私はもう年をとってしまいました。

陛下の御恩は限りなく大きいのに、その御恩返しは中々出来ません。

どうしたら、この心持を慰めることが出来ようかと考えますがどうもわかりかねます。

唐の 白楽天(はくらくてん) は、官を退いて後、酒と琴と詩の三つを友として、楽しみ暮らしたということですが、私にも、それよりほかに道はございますまい。

天皇は、この詩に大へん御感心あそばされ、その場で御召物を脱がせられて、菅公に賜わりました。度々お褒めの御言葉をいただきましたが、何と今日は人々の見ている中で、 御衣(ぎょい) を賜わるというのですから、こんな光栄はまたとありません。

菅公は、ただただ有難さに感泣するのみでありました。



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菅原道眞公のお話 目次
第一話 其の①男子生まれる【前編】(10/2) 第二話 其の①男子生まれる【後編】(10/3)
第三話 其の②学者の家【前編】(10/4) 第四話 其の②学者の家【中編】(10/5)
第五話 其の②学者の家【後編】(10/6) 第六話 其の③双葉芳し【前編】(10/7)
第七話 其の③双葉芳し【後編】(10/9) 第八話 其の④月の桂【前編】(10/11)
第九話 其の④月の桂【後編】(10/13) 第十話 其の⑤文武を磨く【前編】(10/15)
第十一話 其の⑤文武を磨く【後編】(10/17) 第十二話 其の⑥官途につく【前編】(10/21)
第十三話 其の⑥官途につく【中編】(10/24) 第十四話 其の⑥官途につく【後篇】(10/28)
第十五話 其の⑦母をうしなう【前編】(10/30) 第十六話 其の⑦母をうしなう【後篇】(11/1)
第十七話 其の⑧文章博士【前編】(11/3) 第十八話 其の⑧文章博士【後篇】(11/6)
第十九話 其の⑨白氏に同じ【前篇】(11/8) 第二十話 其の⑨白氏に同じ【後篇】(11/10)
第二十一話 其の⑩讃岐に赴く【前編】(11/12) 第二十二話 其の⑩讃岐に赴く【後篇】(11/15)
第二十三話 其の⑪阿衡の儀【前編】(11/17) 第二十四話 其の⑪阿衡の儀【中編】(11/19)
第二十五話 其の⑪阿衡の儀【後編】(11/21) 第二十六話 其の⑫春立ちかえる【前編】(11/23)
第二十七話 其の⑫春立ちかえる【後篇】(11/25) 第二十八話 其の⑬歴史家道眞【前編】(11/27)
第二十九話 其の⑬歴史家道眞【中編】(11/30) 第三十話  其の⑬歴史家道眞【後編】(12/2)
第三十一話 其の⑭遣唐使を停む【前編】(12/4) 第三十二話 其の⑭遣唐使を停む【中編】(12/7)
第三十三話 其の⑭遣唐使を停む【後編】(12/13) 第三十四話 其の⑮知命の賀【前編】(12/15)
第三十五話 其の⑮知命の賀【後編】(12/18) 第三十六話 其の⑯天皇の師伝【前編】(12/21)
第三十七話 其の⑯天皇の師伝【後編】(12/26) 第三十八話 其の⑰大和への旅路【前編】(H.17/1/24)
第三十九話 其の⑰大和への旅路【後編】(1/24) 第四十話 其の⑱右大臣に昇る【前編】(1/29)
第四十一話其の⑱右大臣に昇る【後編】(2/9) 第四十二話其の⑲御衣を賜わる【前編】(2/14)
第四十三話其の⑲御衣を賜わる【後編】(4/15) 第四十四話其の⑳禍きたる【前編】(4/20)
第四十五話其の⑳禍きたる【後編】(4/21) 第四十六話其の21 流れゆく身【前編】(4/23)
第四十七話其の21流れゆく身【後編】(4/25) 第四十八話其の22明石の驛【前編】(5/4)
第四十九話其の23明石の驛【後編】(5/10) 第五十話其の24筑紫への道(7/5)

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