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第二十八話
その⑬歴史家道眞【前篇】
世間の人達が、道眞をうらやましく思っているうちに、道眞はまた、名誉なことを仰せつかりました。こんどは歴史の書物を作れとの御命令です。
父の是善も、歴史を作ることにあづかりました。それは文徳天皇御一代の歴史、すなわち、『文徳天皇実録』が出来る時のことでした。しかし、『文徳実録』は、沢山の学者達と一緒に作ったもので、是善一人ではありませんでした。
ところが、こんどは、道眞ただ一人に御命令があったのです。多くの学者の中から選ばれて、それも、沢山の官職を兼ねて忙しい日を送っていることは御存じながら、道眞一人に御命令が下るというのですから、天皇が、どれだけ道眞を御信用遊ばされているかがよくわかります。
その歴史というのは、『
これまで我が国には、朝廷の御命令で作られた国史が五つ出来ていました。『日本書紀』『続日本紀』『日本後紀』『続日本後紀』『文徳実録』が、それです。
これらの国史に記してあるのを、類によって分けようというのが、『類聚国史』です。類によって分けるというのは、神様に関するもの、天皇に関し奉るもの、田地に関するものというように、同じ種類の記事を抜き出してまとめることです。
これまでの五つの国史は、年月日を追って出来事を記した歴史でした。そのような歴史書を、編年体の歴史と申します。編年体の歴史もわるくはありません。事の起こった順序がよくわかるから、これも結構です。
しかし、同じ種類の事柄をまとめて知りたいというときには、不便です。年月に従って一々読んでゆき、その中から、必要な記事を拾い出さねばならぬ、という面倒があります。ところが、種類分けにしてまとめておくと、その面倒がなくて便利です。
ーーー『類聚国史』をお作りになろうとなされたのは、あらまし、このようなわけからでした。
ちょっと考えてみれば、そのくらいのことなら誰にでも出来そうに思われますが、実はそんなにたやすいことではありません。容易でないからこそ、道眞に御命令があったのですし、また道眞も、勅命を拝して以来、夜となく昼となく勉強し続けて、やっとそれを作り上げたのでした。
出来上がるとすぐ天皇の
これまでにも歴史の書物はありましたが、『類聚国史』のような体裁の書物が出来たのは、こんどが初めてです。開いてみればいかにも道眞の苦心のあとがうかがわれます。
いろいろな事柄によって分けるのですが、その分けたのを並べる順序は、一体どうしたらよいのでしょう。
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