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第二十七話
その⑫春立ちかえる【後篇】
道眞は、驚いてしまいました。
そこで昔から、よほど優れた人でなければ、蔵人頭には任じないということにしてありましたし、こんな利けものの官職に藤原氏以外の者が任ぜられては、わがままがしにくいというので、近頃は大抵、藤原氏の人がこの地位を占めていました。
その蔵人頭に、任ぜられるというのです。
道眞はびっくりしてしまいました。
「藤原氏でないばかりか、たかの知れた学者の自分が、蔵人頭というような、政治上大切なお役目についてもよいものだろうか。」
と考えてみれば、不安な気持ちがします。その夜は、一晩中いろいろと考えてみましたが、とても自分には勤まりそうもないと思って、あくる日には、思うところを詳しく書いて、御辞退申し上げることにいたしました。
しかし天皇は、お聞き入れになりません。それのみか、それから、やっと十日たった三月九日には、
道眞は、
「到底これだけのお役目を果たすことは出来ませんから、どうしても、蔵人頭だけは、やめさせていただきとうございます。」
と、またお願い申し上げましたが、やはりお許しがありません。
いくら申し上げてもお許しがないのは、天皇が、深く道眞をご信用遊ばされていたからでありますし、また、固いご決心で、政治をお進めになっておられたからです。
道眞にも、天皇のご決心はうすうすわかりましたから、この上は、どんなにでもして、天皇におつくし申し上げようと、深く覚悟をきめました。
その間に、
世間の人たちは、道眞のトントン拍子の出世ぶりに、驚きの眼をみはりました。中には「今に見ていろ。」とうらめしく思うものさえありました。
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