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第十七話
その⑧文章博士【前篇】
道眞は、文章博士になりました。
曾祖父さんの
道眞の年は33、
世の中の人々も、
「菅家(かんけ)は大した御威勢だ。学者の家で、いま菅家に及ぶものはいない。」
といって、うらやましがりました。
中にはねたましく思った者もありました。威勢のよい家には、何かといえば、人が集まります。ちょうど道眞が文章博士になった年、菅家ではやしきを立派にしましたが、そのお祝いだといって人の来ること来ること、次から次へとひっきりなしです。
はっきりはわかりませんが、その数はおおかた一万にも近かったでしょう。
父の是善は、道眞にいいました。
「お前が文章博士になったことは、我が家にとっても、自分としても、まことによろこばしい。世の中の人も、今までにも増して菅家を敬ってくれだした。しかし・・・・・」
と、是善の声は重々しくなりました。
「我が家には、親戚に権力のある者があるわけでなし、藤原氏のように皇室と御縁故があるわけでもない。それでいて、あまりにもよいことばかりがあると、世の中の人はそれをねたんで、何かにつけて中傷するに違いない。これからは、万事に、よほど注意しないといけない。」
いわれてみれば、道眞もなるほどと思いました。
この頃の人々は、どうも少し考え方がせま過ぎるようです。勧学院とか、学館院とかを建てて、互いに競争でその氏の者達の出世をはかるのは、立派な人々を沢山世の中に送り出すためだから、それは必ずしもお国のために悪いことではありません。しかし、競争の心の強いあまりには、ほかの家の人のことを悪く言うものが、この頃は少なくないのです。
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