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第四十八話
その22 明石の驛(うまや)【前編】
都の町はずれまでは、奥方の名代(みょうだい・・・ある人の代わりをつとめること。また、その人。)として、使いの者が見送ってまいりました。筑紫までのお供がかなわぬというので、せめてもの名残を、使いを立てて、途中まで見送られたのでありましょう。
その使者が、いよいよお別れを申し上げて、都の方に引き返そうとすると、菅公は歌を詠んで、これを奥方に伝えよと命ぜられました。
その和歌は、次の通りでありました。
君が住む宿の
かくるるまでにかえり見しやは
わずかに四年の間、讃岐に行っていただけで、五十幾年という永い間住みなれた平安京です。そこには祖先代々の人々が眠り、奥方もさびしく残されています。
菅公は後ろ髪を引かれる思いで、幾度となく東の方を振り返りました。やがて奥方の使者の姿も消えてしまい、
菅公は眼を閉じて、ただ
今の大阪を、その頃は、難波といっていましたが、その難波から船に乗ることなっていました。
菅公は、船に乗る前の一日をさいて、今の道明寺、その頃の
それは、ここに
それは、思いがけなくも会うことの出来たよろこびと、不幸な甥の身の上を悲しむ心とのうれしくも悲しい涙でありました。
その夜、年老いたおばと、これまた白髪まじりの甥との物語は、それからそれへと中々つきませんでした。
是善卿(これよしきょう・・・菅公の父)の生きていた頃のこと、
もはや残る命も長くないと思うおばにとっては、これがこの世での最後としか思えません。
そう思えば、いくら語っても、いくら泣いても、まだ足りません。菅公にしても、とっくの昔に両親を失っていますので、
二人の話は、いつ果てるともわかりませんでした。
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