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第三十七話
その⑯天皇の師伝【後篇】
道眞は、 「かような大事は、よくよく時節をお考えになる必要があると存じます。そして唯今は、その時期でないと存じます。」
と、御思い止まらせられるよう申し上げました。道眞は、いい加減なことをいう人ではありませんでした。真剣に考えて、これがよい、こうが正しいと思うことを、心をこめて申し上げる人でした。真剣に考えて、これがよい、こうが正しいと思うことを、心をこめて申し上げる人でした。この時も、天皇は道眞の言葉をお聞きになって、御譲位遊ばされることを、御延期なさいました。
寛平九年になるとまた天皇は、御譲位遊ばされようとお考えになり、そのことを道眞におもらしになりました。道眞はこの度も、
「まだその時期でないと存じます。」
と申し上げました。
ところが、そのうち天皇の思し召しが、他の人々にもれたように思われだしました。そこで道眞は思いきって申し上げました。
「もはや人々の耳に入りました以上、あれこれなさいますと、その間に、悪いたくらみをする者が出ないとも限りません。そのことを考えますと、御譲位遊ばすほかはないと存じ上げます。」
宇多天皇は、これをお聞き遊ばされると、すぐ御譲位の御決心をなさいました。
道眞としては、真心を以って、よくよく考えた結果申し上げたことではありますが、御譲位をおすすめ申し上げることになって、なんだか相済まなくも思いました。そしてまた、自分の申し上げることを、お聞き下さる天皇の御心に、感激せずにはおられませんでした。
「この感激を以って、新しい天皇におつくし申し上げよう。」
と道眞は、自分の心に誓うのでありました。
新しく御位につかせられた
これを、『
その御遺誡の中には、道眞は
「どうしたならば、この御恩にお報いいたすことが出来るだろうか。と。涙をぬぐって考える道眞でした。」
「いや、ほかにない。新しい天皇に対し奉り、あらん限りの力をつくしてお仕えする。そうだ、それ以外にない。それが上皇へのご恩報じだ。これが臣下としての自分の道だ。」
こう考えると、道眞の心は落ちつき、新しい元気が、腹の底に湧くのをおぼえました。
つづく
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